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第6章 サイレントキラー

10. サイレントキラーである「高血圧」の最大の恐ろしい出来事が、脳卒中

脳卒中の最大のリクス、すなわち危険因子が高血圧になります。高血圧が、脳卒中の最大の原因と言ってよいのです。

ですから、ここからが本題と言ってもいいと思います。脳神経外科医師の活躍するのが、脳卒中の治療であります。非常にたくさんの内容があるのですが、まずは脳卒中とはどういうものかをお話し致します。

 

11.脳卒中とは

昔は、「中風」とか呼んでましたが、これは、「悪い風に中る(あたる)」という意味が有ります。
脳の血管に何らかの問題があり、突然に症状をおこすような状態をさします。従って現代では、「脳卒中」は「脳血管障害」と呼ばれています。

一般的に脳卒中といえば、意識を失くして倒れることを想像されるかもしれませんがそう言う場合だけではないのです。
たいていの場合には、片麻痺といって、身体の半身が動かなくなる発作が突然おこります。
同時に失語症と言って、言葉が出なくなることもあります。誰とは申し上げられませんが、有名人にも、片麻痺+失語症の方がおられると思います。
多くの場合は、右片麻痺+失語症が多いのですが、これは、左大脳半球に言語中枢があることが多いためで、通常左の大脳の運動領野と呼ばれる部分が脳卒中で破壊されると、神経線維が途中で左右交叉するために、右片麻痺と失語症となるのです。

 

12.脳卒中の種類

それでは、脳卒中の種類にはどんなものがあるのでしょうか。

脳内出血、脳梗塞、クモ膜下出血の3つが代表的なものです。
この他に、「一過性脳虚血発作」といって、脳梗塞には至らない一時的な、脳虚血(脳に血液が回らない状態)も大切になります。
これら1つ1つの病態を理解するためには、かなりのボリュームになりますので、ここではその概要を示すにとどめて、今後できればシリーズ化して行きたいと思います。

日本の脳卒中は、ここ30年間で大きく様変わりしました。私が、脳外科医になりたてのころは、70%くらいが、脳内出血でしたが、最近はそれが脳梗塞へと変化しました。
これは、ひとえに食事の欧米化、すなわち炭水化物中心の食事から、脂肪の多い食事へと変化してきたことに起因します。
それに輪をかけて、24時間営業の店の出現。
今や、よほどの不便なところでなければ、24時間食事をとれない場所はないといっても過言ではないでしょう。

飽食の時代です。

痩せた高血圧の人から、太った高血圧、脂質異常症の人へと変わってきています。

 

13.脳内出血

脳内出血は、脳の細い動脈が裂けて脳内に出血して脳細胞が死んで行く病態です。

そして、出血する部位には好発する場所がいくつかあります。
その出血する場所によって症状が変化しますし、その出血の量によって命を失うこともあるわけですね。
たいていの場合は、左右どちらかの麻痺、すなわち片麻痺を起こしますが、時に麻痺が無い場合もあります。
また、小脳や脳幹部に出血した場合には、ふらつきや眩暈だけのことや、四肢麻痺といって、左右の手足が全く動かなくなったり、いきなり呼吸が止まる程のひどい発作のこともあります。

 

 

14.脳梗塞

脳梗塞は、脳の細い、あるいは太い主幹部の動脈が詰って血流がとだえ、脳細胞が死んで行く病態です。脳内の太い動脈や頚部の動脈が動脈硬化で硬くなってゆっくりと詰って行く「脳血栓症」と、心臓から塞栓子と言って、血の固まりが脳にまで血流に乗って飛んで行く「脳塞栓症」、そして、脳内の細い動脈が詰ってできる小さめの梗塞である「ラクナ梗塞」に分けられます。

この中でも、最も激烈な症状をきたすのは、「脳塞栓症」で原因の多くは「心房細動」という心臓の不整脈によります。ですから、脳には全く原因がなくても、不整脈をあなどっていると突然脳塞栓症で死ぬということもあり得る訳けです。

 

15.クモ膜下出血

クモ膜下出血は、脳内ではなく、クモ膜下腔という部分にある動脈にできたコブ(瘤)が破裂しておこる病態です。この3つの脳卒中の中では最も死亡率の高いものになります。

しかも、このコブの大きさは大体1cm以下の小さいものが多いのです。人間が死に至る病で、1cmに満たない病巣で死ぬなんてことは、この「破裂脳動脈瘤」以外に他に無いと思います。

現在、盛んに「脳ドック」が行われるようになりましたが、この脳ドックなるシステムは、日本が発祥の地です。クモ膜下出血の原因である「未破裂脳動脈瘤」を「破裂」する前に発見する目的で始まったのです。脳ドックで行われる検査は、主にMRIという医療機器を使用します。

このくも膜下出血の好発年齢が50-60歳とまたこれが働き盛りの人に多いのも問題です。
そして、脳動脈瘤は遺伝することがわかっています。
同じ血族内で何人かが発症することはしばしば遭遇します。
私も、くも膜下出血で手術した患者さんの御家族(兄弟姉妹、両親、子供、祖父母、いとこなど)には、MRI検査を受けるようにお勧めしております。

もし、脳動脈瘤を持っている人が高血圧でもあったとしたら、さらに破裂しやすくなるのはごく当たり前ですね。

 

これらいずれの脳卒中におきましても、症状はある日突然発症します。あんなに元気だった人が。。。っていうのが脳卒中です。

私は、高血圧の患者さんには特に、外来で厳しく指導しますがその時には必ずこう言っています。

「脳卒中は、発症したらそこで人生が終わるんです。死ぬかもしれないし、片麻痺などの後遺症で一生苦しむかもしれない。そして、そこで職を失うんですよ。」

実際、職を失うと本人だけでなく家族全員が不幸になる場合が多いです。

本当に、予防がすべてであることを、あなたにはしっかりと知って欲しいのです。

 

<ウソ11> 脳卒中が起こる前には、何らかの前兆があるからそれに注意していれば予防できる

 

脳卒中は、ある日突然にあなたに襲いかかります。それが、サイレントキラーと言われるゆえんなのです。

 

Dr HT:
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