最近、脳動脈瘤に関するエンタメ情報が多いですね。今回は、川村ひかるさんです。
川村ひかる:もとグラビアアイドルの36歳。23歳の時に子宮内膜症を発症。外食ができなくなったために自炊を開始したところから、発酵食品などについて研究するようになったと言われます。2014年9月に、ゴルフをしている時にただならぬ頭痛に襲われ、検査の結果、脳動脈瘤が発見されたのです。結果的には、この頭痛は未破裂脳動脈瘤とは無関係であると私は思いますね。だって、未破裂で発見されたのですからね。医師からは、”まだ小さいため手術適応がないが、大きくなると視神経を圧迫することがある”と言われたようですね。まあ、マスコミの発表ですのでどこまで信ぴょう性があるかは疑問ですが、”未破裂脳動脈瘤”があることだけは事実のようですので、今回は、この”未破裂脳動脈瘤”について少し、脳外科専門医として正確な情報をお伝えいたします。実際、彼女も「死ぬんじゃないかとおもった。」と言われているように、日常では、聞きなれない疾患を耳にしてしかも破裂すると死亡率の高い脳動脈瘤の存在を突きつけられると動揺するのも無理はないですね。しかし、人との出会いは不思議なもので、彼女もこのゴルフ場での頭痛がきっかけで、その時にゴルフに来ていた一般人男性との交際が始まったと言いますからね。2015年にプロポーズされて来年にも結婚が噂されているようです。
未破裂脳動脈瘤
くも膜下出血のところでも述べましたが、くも膜下出血の原因はほとんどが先天性の破裂脳動脈瘤です。従ってくも膜下出血の発症予防には、破裂する前すなわち”未破裂”の状態で治療することが肝になります。それが今盛んにやられるようになった「脳ドック」という日本独特の制度になります。
発見はもちろん、脳ドックだけではなく、今回の川村ひかるさんのように、なんらかの脳に関連するような症状があり、たまたま撮影した脳のMRIによって発見される場合もよくあります。一般的に未破裂脳動脈瘤が発見される確率は、約2−5%といわれています。この数字は結構大きいですよ。例えば職場に100人職員がいると2−5人未破裂脳動脈瘤が見つかるということですね。ただし、この見つかった脳動脈瘤がすべて治療の対象になるわけではないということも知っておく必要があります。
症状
くも膜下出血のところでも述べていますが、破裂したら”突発性の激しい頭痛”が100%起こります。しかし、未破裂脳動脈瘤には、症状がありません。特に5−8mm程度の良くある一般的な動脈瘤では症状がないのです。
診断
MRIによるのが一番安全(放射線被曝がない)で、正確です。頭部CTでは、被曝しますし、造影しない限り動脈は映りません。
以下は、過去に私が経験した未破裂脳動脈瘤の症例です。
<未破裂右中大脳動脈瘤:約3mm MRA画像>
<上記MRAの3D画像(左右が反転してるのは後方から見ているから)>
破裂率
通常の未破裂脳動脈瘤の場合:0.5〜3%程度といわれておりそし、破裂に関与する因子として以下のようなものがあります。
- 大きいもの(7mm以上)
- 後方のもの(脳底動脈瘤、内頚ー後交通動脈瘤)、前交通動脈瘤
- 不規則な形、ブレブ(乳首のように部分的に飛び出した形状)を伴うもの
- 複数動脈瘤があるもの
- 高血圧
- 多嚢胞腎症(遺伝性あり)
- 喫煙
- くも膜下出血に合併した瘤
- 家族(特に同朋:兄弟姉妹)にくも膜下出血がいる家系
治療
結局、未破裂脳動脈瘤で患者さんが悩まれるのは、治療をするのかしないのかするならば、開頭手術(ネッククリピング術)か血管内治療(瘤内コイル塞栓術)なのかという点です。
治療をしない場合でも、定期的な動脈瘤の監視(MRIなどで画像を定期的にフォローする)が必要です。
治療をする場合には、何と言っても執刀医の技術が問題になるのです。この点、日本では、医師の評価基準がどこにもなく、誰を選べばよいのかということにみなさん本当に困られていますね。セカンドオピニオン制度などを使ってじっくりと検討するしか方法がありません。
私もこの点が一番、日本に欠けている問題であると感じます。
<未破裂脳動脈瘤のクリッピング術>
手術費用
一般にあまり病院でも話題になりにくい、手術の費用はどのくらいかかるのでしょうか?
未破裂動脈瘤の治療の場合で、おおよそ150〜200万円(保険診療では、これに3割負担であれば0.3を掛ければ実費が算出できます。
破裂脳動脈瘤の治療の場合は、おおよそ200〜300万円となります。やはり、破裂しますと症状も重篤になりやすく脳血管攣縮や水頭症の合併症により費用が高くなるのです。
手術成功率
このことを論ずるのは大変困難です。というのは、術者によって随分成績が異なってしまうからです。この成功率は裏返せば、合併症率によるわけで100%安全な手術はないわけですから100ー(合併症率)=(成功率)と考えられます。
手術は、その動脈瘤の部位、大きさ、形、周辺の組織との癒着具合、年齢などによってずいぶんと難易度が変わるわけですね。ですから、患者さん一人一人でその難易度や合併症率もかわってしまいます。従って、一般論でこの問題を論ずるのは危険です。しかし敢えて、ご参考のために私が患者さんに実際に説明する時に使っている数字でご説明いたしますと:
未破裂脳動脈瘤の開頭手術:約3%
破裂脳動脈瘤の開頭手術:5−10%
これくらいの数字でお話申し上げております。未破裂で死亡例の経験はありませんが、重篤な合併症のために寝たきりに近い状態になった患者さんは経験しております。
手術とはそういったリスクを秘めているのです。