ここで”朝起こる頭痛”となると、我々脳外科の世界では、その症状の組み合わせでもっとも危険な疾患は「脳腫瘍」です。このブログは、”高血圧”に特化しているサイトですが、高血圧以外の他の疾患のこともきちんと、お話ししておく必要があると思います。
高血圧を一応、血圧が正常だった人に起こった血圧が上がった状態も含めるとすると、考慮しなければならないことがあります。それは、”クッシング現象”というものです。
クッシング現象(Cushing phenomenon)
これは、脳腫瘍によって頭蓋内の圧が上昇する、いわゆる「頭蓋内圧亢進」というものです。その場合、徐脈(心拍数が遅くなること)、血圧上昇、脈圧(最大血圧と最低血圧の差)の拡大が3主徴と言われます。当然、吐き気(嘔気)や嘔吐も起こり得ます。
頭蓋内圧(頭の中の圧)が上昇するのはたくさんの疾患であり得ますが、今回は脳腫瘍によるものを説明します。脳腫瘍ができているとどうして朝、頭痛が起こるようになるのでしょうか? それは、寝ている間は、呼吸が浅くなり若干ですが二酸化炭素が血液中に溜まりやすくなります。二酸化炭素は動脈を拡張する作用をもっておりますから、動脈が拡張すると体積が増大しますね。これが脳全体で起こると、頭蓋内の圧力が行き場を失って、内側から骨に向かって圧がかかるようになります。そうすると骨の下の硬膜という膜に厚がかかることになり結構強い頭痛がおこることになります。
さらに、吐き気や嘔吐にこだわると”胃や十二指腸などの上部消化管と言われるものに異常がないかどうかを鑑別しようと胃カメラを一生懸命やる羽目に陥るかもしれません。
早めに脳神経外科を受診して下さい
これはもう言わなくてもわかりますよね。それは、血圧にとらわれていますと、内科あるいは循環器科などを受診しがちとなります。そして、血圧が高いのだからまあ、吐き気がおこっても不思議はないかなぁとか言っていますと、いきなり外来で痙攣起こしたり、降圧剤を処方されたりしますと、その降圧剤が、カルシウムブロッカーだったりしますと、この降圧剤の血管拡張作用によってますます頭痛が悪化することもあり得ますので非常に困りますね。脳腫瘍が放置され、腫瘍の増大をきたしますます頭痛が悪化します。
さらに、吐き気や嘔吐にこだわると”胃や十二指腸などの上部消化管と言われるものに異常がないかどうかを鑑別しようと胃カメラを一生懸命やる羽目に陥るかもしれません。
脳のCTやMRIを正確に検査することも忘れてはならないのです。
エピソード
もうかれこれ相当昔になりますが、ある大病院に私が勤務していたころ、消化器内科を「吐き気」を主訴に来院された60歳代の女性が受診し、一生懸命、胃や腸を調べましたが全く異常ありませんでした。ある日、その患者さんが「時々、朝頭痛に悩まされるんです。」と言われましたので、やっと、脳のCT検査が行われたのです。すると、大きな髄膜腫と言われる良性脳腫瘍が発見されたのです。吐き気の原因は頭にありました。脳外科の私に紹介され、私の執刀でこの腫瘍は全摘出され、この患者さんの吐き気と頭痛は見事に消失いたしました。
以下にその画像をお示しいたします。
<赤い矢印が造影された腫瘍です>