第7章 脳卒中の治療

治療

では、脳卒中の治療はどうするのでしょうか。

それは、簡単に言えば、「手術する」か「保存的治療」かどちらかです。

私たち医師はよく「保存的治療」って言いますが、これは要するに点滴などの薬を使って様子をみるだけと言うことになります。私は、外科医師ですからこの薬による治療は「嫌い」です。どうしてって、自分の外科医としての力量が発揮できないからです。

16.脳内出血の治療

 脳内出血の場合には、出血する場所によらず症状が重篤でなければ、「保存的治療」です。

もちろん、あまりに重篤すぎて手術ができない、あるいは手術しても救命不可能という場合もあります。

ここで言う、「保存的治療」の中身は、脳の腫れを防ぐ薬の使用を指します。止血剤も使用しますが、これはまずおまじない程度の効果でしょう。そして、意外かもしれませんが、非常に大切な治療が、「胃潰瘍」の予防です。

 私が、脳外科医になりたてのころは、脳内出血の患者さんが、「胃潰瘍」からの大量出血でよく無くなられていました。これは、ストレス潰瘍といわれるもので、脳に出血がおこったために全身に「大変なことが起こった!」っていう指令が回ります。そのために、非常に大きなストレスが生じ「胃潰瘍」が瞬く間に生じるのです。本当に私たち脳外科医は、脳内出血の患者さんが脳の病気ではなく、消化管出血で死んで行くのを診ては悲しい気持ちに陥っていました。

 ところが、近年、胃潰瘍に対して大変強力な薬が出現しました。「H2ブロッカー」と「プロトンインヒビター」と呼ばれる一群のくすりです。これのおかげで、現在の医療現場では、脳卒中の患者さんが「胃潰瘍」からの大量出血で死亡するようなことはほとんど無くなったのです。

さて、手術はどんなときにするのでしょうか。

それは、手術しないと「死亡する時」です。

『えー、それじゃあ意味ないじゃん。』っていう声も聞こえてきそうですが、あなたは、手術すれば、片麻痺や失語症が治せると思っておられますか?

それは、ウソです。

<ウソ12> 脳内出血の患者さんは手術すれば、片麻痺や失語症を治すことができる

むしろ、何とか壊れずに済んだでいた脳細胞を手術したために壊してしまう、ってことも起こりえるのです。出血した血液は、何ヶ月かの時間経過で自然に吸収されて行きます。

ですから、そっとしておいた方が良い場合が多いのです。まして、小さい脳内出血であれば何もしない方がよいのです。

手術は、あくまで救命の時に使う奥の手であると考えて下さい。

 

17.脳梗塞の治療

 脳梗塞の場合はどうでしょうか。

脳梗塞は、どんなタイプにしても脳動脈が閉塞して起こります。ですから、もしこの閉塞した部分を開通させることができるならば症状を治すことが可能になります。これに対しては、血栓・塞栓を溶解する「アルテプラーゼ」という薬が開発されています。ただし、4時間半(4.5時間)以内に治療が完了していなければならないという条件がつきます。つまり、できるだけ早く病院に、しかもこの薬が使える病院に患者さんを運ぶ必要があります。ここが、重要な点で、せっかく急いで運んだ病院で、この薬を使える医師がいないとどうしようもありません。実は、この薬を使うにあたっては、条件が2つそろっている必要が有るのです。1つは、使える医師であること、もう1つは、使える病院であることです。一般の人にそんなことは知る由もありません。このことは、まだまだ啓発活動が足りないために、一般の人も十分に知らないのです。そして、脳卒中が起こったとわかってもどこに行けばよいかも知らないことが多いのです。

現在では、脳外科専門医あるいは神経内科専門医がいる所であればまず、このくすりは使用可能ですので、日頃からよく調べておく必要があります。

そしてさらに、現在では、血栓溶解薬で血流再開通ができなかった時には、経動脈的血行再建療法という進化した方法があるのです。

これについては、別の章を設けてご紹介いたします。この方法は、どこの病院でも可能ではありません。そして発症から6時間以内に治療を開始する必要があるのです。ステントリトリーバーまたは血栓吸引カテーテルを用いた機械的血栓回収療法です。

地域別日本脳神経外科学会認定専門医リスト

日本脳神経外科学会専門医地図

地域別日本神経学会認定 神経内科専門医名簿

日本神経学会 - 会員管理システム

 

<ウソ13> 脳梗塞は、発症しても血栓溶解薬が使えるから、翌日になって病院に行けばよい

先ほども述べましたが、この血栓溶解薬「アルテプラーゼ」は、発症後4.5時間以内であっても治療開始が早い程、予後が良い(後遺症が残りにくい)ので、急いでこの治療が可能な施設に運ぶ必要があります。ですから、通常は、救急車をすぐに(何時であろうと)呼ぶのが正解です。現在、町、市によって、脳卒中患者さんの扱い方について特に救急車で搬送する病院の決定方法が統一されておらず、この薬が使用できるかどうかは、「時の運」であるといっても過言ではないのです。普段から、情報を得ておくことが、その人の人生を有利な方向へ導くことになるのです。

脳梗塞の急性期治療としての外科的治療は、かなり特殊になりますので、今回は述べないことにします。また、予防的な側面からもお話したいことはたくさんありますがこれも今回は割愛させていただきます。また、別の機会を設けていきたいと思います。

日本脳神経血管内治療学会 専門医名簿 (2025年4月1日現在)

専門医名簿 - JSNET
日本脳神経血管内治療学会:専門医名簿

私が、これまで説明してきました様に、脳卒中は一刻も早く、いい脳神経外科専門医がいるいい病院に救急車を呼んで搬送すべきなのです。

この「いい医師」、「いい病院」ってのが、今の日本では見つけるのが非常に困難であるのが最大の問題であると私は思っていますが。。。

 

 

真実は1つ

ですから、脳卒中の予防は、高血圧の治療。

結局のところ、高血圧はきちんと治療しないと、早く人生が終わっちゃうよ!ってことです。

高血圧の治療、それは降圧剤を内服することにつきるのです。もちろん、それ以外の良い習慣については、本書の初めの方に記載しましたが、それだけでは済まないことも多いのです。

 一般的なお話をしますと、日本人は、矛盾してますが、風邪とか、仕事で疲れたとか、体調がすぐれないとか、重大ではないことで病院を受診しては、やれ「薬」くれ、「栄養剤の点滴」して、とかおっしゃられますが、いざ、重大な「高血圧」とか「糖尿病」「脂質異常症」とかで、医者から薬を処方しますから、きちんとのんで下さい。一度のみだしたら絶対に止めないで下さい、とか言われると、概ね「ハイ」とか返事しておいて、実際には、勝手にくすりをのまなくなったり、かってに半分の量にしてみたりするのはどうしてでしょうね。

こうした、残念な患者さん達の運命は、どうなるのでしょうか?

私は、たくさんの不幸な患者さんたちを何100例と手術してきましたし、診察してきたのです。

途中でくすりを中止した人、通院を止めてしまった人、のんだりのまなかったり適当にしている人、すべて脳卒中を発症されています。そして、後悔する。

私は、あれほど言ったのにって、いつも心の中でつぶやいています。。。

<真実> 高血圧をあなどると、確実にあなたの人生は不幸になる

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